【HIGH END】海外スピーカーブランド最新情報。PMC、ジェネレック、オーディオベクター、PEAK他
今年のミュンヘン・ハイエンドにて発表された海外スピーカーブランドの最新情報をお届けしよう。イギリスのPMC、フィンランドのジェネレック、デンマークのオーディオベクターとPEAK、アメリカのマジコ、スコットランドのファインオーディオ、フランスのオーディオネックである。
トランスミッションラインを追求するPMCの開発手法
イギリスのPMCは、新たに “prophesyシリーズ” を発表、エントリーの “Prodigy” からひとつ上のクラスの製品となる。ブックシェルフ型1モデル、フロア型3モデルとセンタースピーカーの合計5モデル展開となる。発表会では、PMCの現在の代表であるオリバー・トーマス氏(創業者ピーター・トーマス氏の息子)らが登場、新製品の開発背景について語ってくれた。

PMCの大きな特徴のひとつは「トランスミッションライン」と呼ばれる低域再生の仕組みにあり、ウーファーユニットの後ろに長いダクトを設けて低域を増幅する。そのため、自然でアコースティックな広がりが得られるメリットがある一方で、低域が遅れがちになるというデメリットもあり、昨今では採用事例の少ない方式である。日本に導入されているスピーカーではほかにイタリアのALBEDOがこの方式を採用している。

だがPMCはトランスミッションラインならではの豊かさに大きく注目しており、今回のprophesyラインにももちろん採用。会場にはブックシェルフ型の「prophesy1」とフロア型の「prophesy7」の分解モデルも展示され、どのように音導管が配置されているかよくわかる。中高音成分は吸音材によって吸収され、低域のみがフロントのポートから放出されるよう設計されている。

フロントのポートには「Laminair X」と呼ばれる空気の流れをコントロールする技術も搭載。以前からあった「Laminair」を進化させたもので、流体力学において、流体の流れ(今回の場合は空気)が規則的に流れているか、乱流となっているかを示す「レイノルズ数」という指標があるが、これをさらに低減するべく考案されたものだという。ポート部はアルミで非常に重量感のある作りとなっている。

空気の流れを3Dモデリング化してシミュレーションを繰り返し最適な形状を研究。実際にプロトタイプを作って測定と試聴を繰り返し、最終的に現在の形状に決定した。この形状には、かつてレッドブルでF1レーシングマシンの開発に携わっていたオリバー氏の知見も生かされてるという。

発表会においても、仮説を立てて、緻密なシミュレーションを行い、実際にプロトタイプを作成、その評価を元に次なる仮説を再検討する、といった科学的アプローチを重視して製品開発を行っていることがよくわかった。今年の3月から代表がオリバー氏となり、さらなる製品開発力の強化も期待できそうだ。
PMCのスピーカーは世界各国のスタジオで活用されており、入り口にはPMCを使って作られたさまざまな映像作品名、具体的には『ゲーム・オブ・スローンズ』『タイタニック』『アルマゲドン』などの名前がずらりと展示されていた。

コンシューマー市場に力を入れるジェネレック
ジェネレックは、同社のフラグシップモデル「8381A」のピアノブラック仕上げを初披露。ジェネレックはプロ向けスタジオモニターとして世界的に大きなシェアを持つブランドだが、近年はホームオーディオ向けにも力を入れており、ピアノブラック仕上げもその流れに位置付けられる製品となる。

8381Aは別筐体のパワーアンプとセットで、日本円にしてペア約800万円。決して安いとは言えないが、それでも昨今のハイエンド・スピーカーの「スーパー高額化」を考えれば(当たり前の話だが1億円のスピーカーを鳴らすためにはそれに “ふさわしい” ランクのアンプやプレーヤーも必要となる)、「意外とお求めやすい」と考えるオーディオマニアも少なくない、ということなのだろう。

コンシューマー向けに販売するために、アンプのフロントデザインも凝ったものとなっている。ビジネスマネージャーのエリックさんの説明によると、「通常スタジオ向けではアンプはラックの中に入れられてしまうため、8381Aについてもあまりデザインにはこだわっていませんでしたが、やはりコンシューマー向けとしては、アンプを見えるところに設置して、視覚的にも楽しみたい、という方も多くいます」とのこと。プロ機とコンシューマー機の境目も薄れていく傾向にあるようだ。
オーディオベクターからもフラグシップ登場
またデンマークのオーディオベクターからは、“Rシリーズ” より「R10 Arrete」が初登場。こちらもフロントに2基のAMTトゥイーター、それに3基のユニットが見えるがこれはミッドレンジ。背面に8基のウーファーユニットを装備したフラグシップスピーカーで、海外価格は165,000ドル(およそ2400万円程度)と発表されている。

AMTドライバーは、オスカー・ハイル博士の発明によるハイルドライバーの一種で、折りたたまれた薄いフィルムにコイルを貼り付け、そこに電流を流すことで音を発生させるメカニズムとなっている。AMTドライバーは他にも、ELACやFINK Teamなどにも採用されており、支持者も多い再生方式である。

オーディオベクターはこのAMTドライバーの使いこなしに定評があり、今回のR10 Arreteについても、スーパートゥイーター(20 - 53kHzを担当)とトゥイーター(3 - 53kHzを担当)の2基に活用。スーパートゥイーターは可聴帯域以上を担当するという仕様。サウンドステージをさらに精緻に、ダイナミクスをより豊かに再現すると説明しており、ハイレゾ音源などの再生により効果的と考えて採用したということだ。
背面のウーファーについては、5インチ(127mm)ユニットを縦に8基ラインアレイのように並べたもので、15インチ(381mm)ウーファーと同等の振動板面積を確保しているという。5インチユニットで動作の敏捷性を確保するとともに、スリムなスピーカーキャビネットを実現している。自社でユニット開発ができる強みを活かした独自のスピーカーとなっている。
PEAK、マジコ、ファインオーディオ、オーディオネックの新製品
デンマークのPEAKは、元DYNAUDIO創業者のウィルフリート・エーレンホルツ氏が関わっているスピーカーブランド。こちらもオーディオベクター同様、独自開発による高性能ユニットと、デンマーク伝統の木工技術を生かしたキャビネットによるスピーカーを展開している。一番安い価格の「Sonora」で日本円にして500万円強と、ハイエンド価格帯に注力するスピーカーブランドである。

今回は、細部をチューンナップしたという中核スピーカー「El Diablo」をメインとして展示。外観は既存モデルと共通だが、狭い部屋でもよりよく鳴らせるようにクロスオーバーなどを再設計したモデルとなっているそうだ。アジアからの要望によるものだそうで、日本のユーザー環境にも合致したリチューンとなっていそう。
また、マジコは比較的コンパクトなサイズの「S2」をワールドプレミアで披露。例年通りのオレンジのビビッドなルームを展開、PILIUMのアンプと組み合わせて力強いサウンドを披露していた。

ファインオーディオは大型フロアスピーカーの「F704SP」と、スリムなデザインの「F502S」を披露。いずれも同社が得意とする同軸ISOFLAREドライバーを搭載。「F704SP」にはスーパートゥイーターの「SuperTrax」を装着して再生を行っていた。

フランスのオーディオネックからは、箱型ではなくオープンバッフル型の「OBi」スピーカーが初登場。サイズはMINI、MID、MAXの3種類。オーディオネックを象徴する2本のダイポールドライバー「DuoPole」はもちろん搭載、DuoPoleの上にはドームトゥイーター、300mmウーファーが活用されている(MIDとMAXには2基)。奥行きを必要としないためより設置の自由度も高まりそうだ。


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