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宇都宮工場のリファービッシュ工程の拡張整備を実施

パナソニックのテレビ工場が目指す“新しいカタチ”とは。宇都宮にリファービッシュ事業のショーケースがオープン

公開日 2025/06/06 14:22 編集部:杉山康介
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パナソニックは、同社グループの宇都宮工場においてリファービッシュ工程の拡張整備を実施し、資源循環型モノづくりのショーケースとしてオープンした。それに際し、6月5日に宇都宮工場にてメディア向け説明会が実施された。

リファービッシュ事業でパナソニックの循環を目指す

パナソニックは、2024年4月より検査済み再生品(保証付き)の販売・サブスク事業「Panasonic Factory Refresh」をスタートし、本年2月には取扱ラインナップを計13カテゴリーに拡大。公式EC「Panasonic Store Plus」にて、テレビやBDレコーダー、一眼カメラ、冷蔵庫、洗濯機などの整備品を、通常より安い価格で購入することができる。

パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社(PEAC)の宇都宮工場では、計13カテゴリーのうち7カテゴリーのリファービッシュを行っているが、この度、工場内で分散していた各商品カテゴリーの工程を新エリアへと集約するとともに、再生工程に最適なレイアウトへと刷新。加えてリファービッシュ品の展示エリアを設け、ショーケースとしての機能も持たせた。

 

 

同工場では6月17日より一般の方を対象としたリファービッシュ工程の見学を実施する予定で、6月5日よりPanasonic Factory Refreshウェブサイトにて事前予約の受付をスタートしている。

説明会にはパナソニック マーケティング ジャパン株式会社のダイレクト事業戦略室 新規事業推進部 部長の渡邊暦氏が登壇し、パナソニックが「地球環境問題の解決こそが人の幸せを永遠に確保するための最優先課題」だと考え、環境行動計画「Panasonic GREEN IMPACT」にてカーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーに取り組んでいると説明。

 

パナソニック マーケティング ジャパン株式会社 ダイレクト事業戦略室 新規事業推進部 部長の渡邊暦氏

 

このうちサーキュラーエコノミー(循環経済)の取り組みとして、エアコンなどのリペア・メンテナンス事業やIoTによる購入後のホスピタリティ強化、サブスクリプション型サービス、そして今回の主題であるリファービッシュ事業などを展開しているという。

リファービッシュ事業では、さまざまな理由によってパナソニックへと戻ってきた家電を同社工場にて再生し、1年間の保証をつけて販売、またはサブスク提供している。本年2月からはラインナップを計13カテゴリーに増やすとともに、取扱商品をほぼ新品状態の「Aランク」だけでなく、やや使用感がある「Bランク」「Cランク」まで拡大。

事業開始からおよそ1年経った2025年3月時点での顧客調査によると、総合満足度は94%と非常に高い状態にあるという。渡邊氏は「再生品だからこそ信頼性は重要だと改めて感じている。こうして再生品を使ってパナソニックのファンになっていただけたら、『次は新品を買ってみよう』とより循環していける。そういった姿を目指して取り組んでいきたい」と意気込みを語った。

環境・地域貢献で工場の役割を再定義

PEACはテレビやBDレコーダー、カメラブランドLUMIX、オーディオブランドテクニクスなど、その名の通りエンターテインメントやコミュニケーションにまつわる製品を手がけるグループ会社で、宇都宮工場では1967年の操業以来、テレビやSTB(セットトップボックス)を中心に製造を行ってきた。

現在はテレビ生産が海外拠点へと移ったことなどから、透明有機ELディスプレイなど業務用機器の生産、コミュニケーションロボット「NICOBO」などのサービス事業、そしてリファービッシュ事業を担当する。

PEAC宇都宮工場 工場長の竹田恭介氏によると、パナソニックはこれまでも中古家電のリサイクルを行ってきたが、その中には新品同様のまだ寿命を迎えていない製品も混ざっていたそう。それを工場としてのプロフェッショナルのスキルで救い出すことができるのでは、と考えたことがリファービッシュ事業のきっかけのひとつだという。

 

PEAC宇都宮工場 工場長 竹田恭介氏

 

従来から「資源リサイクル」を行ってきたが、まだ使えるものを修理しながら使っていく「再生モノづくり」の考え方が工場の中に必要だと考え、工場の役割を拡大していく。そういったかたちで“新しい工場のカタチ”に向けた工場の役割の再定義を行なっていると語った。

また、パナソニックでは従来より初期不良などで返品された製品の解析を行い、結果を量産体制へとフィードバックしてきたが、今までだと製品はそのままリサイクルに出されてきた。しかし「傷つきやすい箇所」「交換しづらい箇所」など再生工程から得られる知見を企画・設計部門へとフィードバックできるようになり、データ・知見の循環も図れるようになるとする。

もう一つの大事なポイントとして、「地域共生・社会貢献」があると説明。ショーケースの一般公開に加え、リファービッシュによるサーキュラーエコノミーの実現や社用車に水素自動車を導入しての環境貢献、鹿沼市との「循環型社会の実現に向けた実証事業に関する協定」締結、障害者雇用の推進など、地域に根ざした活動も積極的に行なっている。

元々この宇都宮工場はパナソニック創業者の松下幸之助氏が直接足を運び、豪雨の中2日間に渡って水の流れを観察して場所を決めたという。テレビ生産の海外シフトで工場の在り方に悩んだ際、松下氏の「道は無限にある」という言葉に基づいて考え抜き、リファービッシュ事業による社会・環境貢献へと辿り着いてこの取り組みを始めたと竹田氏は語ってくれた。

地域に根ざした“新しい工場のカタチ”

リニューアルしたショーケースに入ってみると、至る所に木材が使われており良い意味で工場らしからぬ雰囲気がある。これは地元・鹿沼市のスギの木が使われており、地域や環境への貢献を行うとともに、清潔感や温かみを表現し、リファービッシュの「古い」「汚い」といったイメージを払拭する狙いもあるそう。

また、配電盤をよくみると「ナショナル」のロゴがある。中身は最新のものに更新しつつ、使える部分は使い続けることで環境貢献を図っているとのこと。トイレのプレートにもテレビの梱包材が使われていたりと、環境への配慮とともにデザインにもこだわっているのがユニークだ。

ナショナル時代から使われる配電盤(左)/本来ゴミになるものをトイレのプレートに使用

ルートの1番最初にはリファービッシュ品の展示とともに、宇都宮工場の変遷紹介、これまで作られてきた製品の展示を実施。1994年発売のブラウン管テレビ「画王」が現役で動いているところも見ることができる。

作業エリアは入り口から向かって左側にテレビ、ポータブルテレビ、カメラ、BDレコーダーの再生設備が並ぶ。ここで不具合部分の検査から整備、チェックまで一気通貫で行える体制が整えられているのだが、例えば一部パーツが不具合を起こしている場合は、基板から丁寧に剥がしてはんだを付け直し、新パーツに取り替えるなど、パーツレベルでの修理・再生が可能なのだという。

テレビの検査工程(左)/整備したカメラのレンズをチェックしているところ(右)

入り口から向かって右側には洗濯機、次亜塩素酸 空間除菌脱臭機、食洗機の再生設備を用意。サブスクサービスから戻ってきた製品などの場合、使ったことにより内部に汚れが溜まっているため、ひとつひとつ確認して状態に応じて清掃、パッキンなど消耗品は交換を行い、付属品も新品を揃えて送り出すそう。

洗濯乾燥機のフィルターを清掃するところ(左)/リファービッシュ前後の食洗機(右)

左側エリアのテレビなどは宇都宮工場が元々生産してきたものだが、右側エリアの3カテゴリーはある種門外漢の製品群だ。これらを同工場で担当することになった経緯を聞いてみると、「テレビなどの生産には水道が必要なかったが、リファービッシュ事業を行うにあたって、まずは水道設備を整えて、水回りの製品を集中して取り扱える体制を作り上げた」とのこと。

なお、この作業エリアには休憩スペースも設けられており、同工場の手がけるNICOBOと触れ合うことができる。スペース内の椅子や机は全て中古品で揃えることで環境への配慮が行われているほか、透明ディスプレイを用いた、対視覚障害者用のコミュニケーションデバイスも用意されている。

さらに工場では派遣会社などと「モノづくり道場運営委員会」という組織を結成しており、「自主自立のモノづくり体制の実現」という目標のもと、新人研修用の施設「モノづくり道場」を運営している。

座学や訓練を通じて工場作業のイロハを学ぶことができる場所で、ここで“黒帯”を取得することで初めて現場に出ることができる。育成だけではなく、例えば「この人は作業時間は遅いが正確だから検査部門に配置しよう」など、作業の結果から適性を見極める目的もあるそうだ。

広い社員食堂は一般の方も使うことが可能で、職業体験に来た中学生が後日、自転車でわざわざ昼食を食べに来たこともあったとか。宇都宮の地に根差し、これからの環境問題に取り組む“新しい工場のカタチ”に注目したい。

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