“音 × 使い方から選ぶ” デノンのプリメインアンプ「PMA-600NE/PMA-900HNE/PMA-1700NE」レビュー
国内を代表する老舗オーディオブランドとして確固たる地位を確立しているDENON。そんな同社製品群の中でも、2015年に山内慎一氏がサウンドマスターに就任して以来「Vivid & Spacious」という理想を掲げ、以前にも増して強力なラインナップを構成しているプリメインアンプ。今回は、そのエントリーからミドルクラスの3製品のポイントをご紹介したい。

幅広いラインナップから3モデルを聴き比べた!
デノンのプリメインアンプはオーディオに興味を持った人が初めてアンプを買う際、間違いなく有力候補に挙げられるだろう。エントリーからミドルクラスに実にきめ細かな製品ラインナップを揃え、そして高い音質と品質、必要かつ十分な機能性には定評がある。
PMA-600NE「この上ない資質と機能の入門機」
最も安価な「PMA-600NE」はまさに入門機。しかしただの入門機ではない。我が国だけでなくヨーロッパでも大人気だった名機「PMA-390」から始まる「390シリーズ」の系譜に連なるデノン最新の入門機であり、現在のサウンドマスター・山内慎一氏が手掛けた銘機「PMA-SX1 Limited」と同時期に世に出されたモデルでもある。氏の掲げるサウンドフィロソフィー「Vivid & Spacious」が反映された最初の入門機なのだ。

まずCDを聴いてみよう。タン・ドゥン『交響曲1997「天、地、人」』は同時に打ち鳴らされるたくさんの鐘が、エネルギーに満ちた音像で力強く音場に展開する。独奏チェロもエネルギッシュでしかも胴鳴りの彫りが深い。価格的にアンバランスなB&W「705 S3 Signature」を、予想していたよりもはるかに力強くドライブしている。
アブラス指揮『マルコプーロス:オルフェウスの典礼』でも、アンプにドライブ力を要求する太鼓の立体感表現が実に立派だ。音場中央に定位するナレーションも立体的なのはチャンネルセパレーションが優れていることをも示している。ナレーションの滑舌がいい。トゥッティでも楽音の重なり合いを分析的に描いている。


本機はMM対応のフォノイコライザーも搭載しているのでアナログも聴いてみよう。カートリッジはCHUDEN「MG-3675」である。妙な色付けをしないバランスの良さ! とにかく素直なバランスなので、音楽と盤の魅力を下手な脚色なしにストレートに引き出してくれるのだ。このフォノイコなら、盤の違い、そしてカートリッジの吟味による音調のチューニングにも敏感に反応してくれることだろう。デジタル入力も搭載しており、入門機としてこの上ない資質と機能の持ち主である。

PMA-900HNE「ネットワーク搭載の超ハイCP機」
では次。「PMA-600NE」の1つ上のグレードに位置するミドルクラス機で、ネットワークプレーヤー機能も有する「PMA-900HNE」を聴いてみよう。

マルコプーロスもやはり低域がさきほどより充実。ドライブ力の余裕の違いだろう。硬かったフルートの質感はほぐれて柔らかい。ナレーションには肉声の温度感が感じられる。さらにバリトン・コーラス間の音像の分離が向上している。さすが上級機だ。


本機の内蔵フォノイコはMMだけでなくMCにも対応している。まずMMを聴いてみると、さきほどよりS/Nがグッと向上。音色表現の細やかさも増している。エネルギー感の余裕も違うのは、CD再生でも発揮されたプリメインアンプとしてのグレードの違いもあろう。
MCは同じデノンの大定番「DL-103」で聴いてみた。MMと同じくグラシェラ・スサーナ『76/45』を再生してみたが、この盤は先日超音波でクリーニングしたばかりの盤でそもそものS/Nが良い。しかしさきほどは聴こえなかった微細なキズ等によるノイズが克明に聴こえる一方で演奏の解像度も高まっている。これはDL-103と内蔵フォノイコのハイファイ性能の高さによるものだろう。
ネットワークプレーヤー機能を試してみよう。本機はネットワークオーディオのプラットフォーム「HEOS」を搭載しているのだ。今回はAmazon Musicを聴いてみる。宇多田ヒカル「二時間だけのバカンス」(96kHz/24bit)は伴奏の電子音の3次元的な定位が明瞭だ。シヴァート・ハイヤム「Blown Away」(44.1kHz/16bit)はS/N性能が低いとモワッとする空気が立ち込める音場に音像がふやけて拡散しがちな録音なのだが、音場はスッキリして音像は筋肉質だ。

実はこの「PMA-900HNE」、山内氏がデノン創設110周年記念モデル「PMA-A110」の直後に世に出したアンプ。A110よりだいぶ低い価格帯の機種であるにも関わらず、A110譲りの高音質パーツや専用カスタムパーツがふんだんに投入されている超ハイCP機なのだ。あとはスピーカーだけ用意すれば、Amazon MusicやQobuzなどのストリーミングを価格破壊の高音質で楽しめるのが本機なのである。
PMA-1700NE「格の違いを見せる上級機」
「900HNE」の上級機「PMA-1700NE」もA110のあとに開発されたモデルで、同機譲りの優秀なパーツが多数採用されている。まずCDを聴いてみよう。

マルコプーロスは弦楽器群の厚みと解像度がアップ。ナレーションの立体感、フルートのヴィブラートの安定感、ホールトーンの精密さ、どれをとっても格の違いを思い知らせる。


「900HNE」と異なりネットワークプレーヤー機能は搭載しないが、USB DAC機能がある「1700NE」。PCを繋いでAmazon Musicを聴いてみよう。
宇多田ヒカルはわざと加えてあるテープヒスノイズの音像が他と混濁せず綺麗に分離。3次元的な定位はより明瞭で、フォーカスがビシッと定まっている。
シヴァート・ハイヤムは各音像の中低域成分が充実してボーカルの肉声感アップ。さらに子音が耳障りになることなく細かに解像され、電子音の持続音が安定感を高めて描かれている。
PCと繋いでこの音だ。単体のネットワークワークトランスポートと組み合わせればいっそう良い音でストリーミングも楽しめよう。

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PMA-600NE 主な仕様
SPEC ●定格出力:45W+45W(8Ω、20Hz - 20kHz、THD 0.07 %)、70W+70W(4Ω、1kHz、THD 0.7%) ●S/N比(Aネットワーク):105dB(CD、NETWORK/AUX、RECORDER/入力端子短絡)、84dB:(PHONO MM/入力端子短絡、入力信号5 mV) ●周波数特性:5Hz - 100kHz(0〜-3dB) ●全高調波歪み率:0.01%(定格出力、-3dB時、負荷8Ω、1kHz) ●入力端子:RCA×4、PHONO×1、同軸デジタル×1、光デジタル×2 ●出力端子:RCA(RECORDER)×1、サブウーファープリアウト×1、ヘッドホン× 1 ●消費電力:190W(待機時最小0.3W) ●サイズ:434W×122H×307Dmm ●質量:7.4kg
PMA-900HNE 主な仕様
SPEC ●定格出力:50W+50W(8Ω、20Hz - 20kHz、THD 0.07%)、85W+85W(4Ω、1kHz、THD 0.7%) ●S/N比(Aネットワーク):105dB(CD、NETWORK/AUX、RECORDER/入力端子短絡)、 86dB(PHONO MM/入力端子短絡、入力信号5mV)、71dB(PHONO MC/入力端子短絡、入力信号0.5 mV) ●周波数特性:5Hz - 100kHz(0〜-3dB) ●全高調波歪み率:0.01%(定格出力、-3dB時、負荷8Ω、1kHz) ●入力端子:RCA×3、PHONO×1、同軸デジタル×1、光デジタル×3、USB-A×1 ●出力端子:RCA(RECORDER)×1、サブウーファープリアウト×1、ヘッドホン×1 ●消費電力:200W(待機時最小0.2W) ●サイズ:434W×131H×375Dmm ●質量:8.3kg
PMA-1700NE 主な仕様
SPEC ●定格出力:70W+70W(8Ω、20Hz - 20kHz、THD0.07%)、140W+140W(4Ω、1kHz、THD 0.7%) ●S/N比(Aネットワーク):107dB(CD、NETWORK/AUX、RECORDER/入力端子短絡)、89dB:(PHONO MM/入力端子短絡、入力信号5mV)、74dB(PHONO MC/入力端子短絡、入力信号0.5mV) ●周波数特性:5Hz -100kHz(0〜-3dB) ●全高調波歪み率:0.01%(定格出力、-3dB時、負荷8Ω、1kHz) ●入力端子:RCA×3、PHONO×1、EXT. PRE×1、USB-B×1、同軸デジタル×1、光デジタル×2 ●出力端子:RCA(RECORDER)×1、ヘッドホン× 1 ●消費電力:295W(待機時0.2W) ●サイズ:434W×135H×410Dmm ●質量:17.6kg
試聴に使用したレファレンスシステム
・CDプレーヤー:アキュフェーズ「DP-770」1,507,000円(税込)
・スピーカー:B&W「705 S3 Signature」719,400円(税込/ペア)
・MMカートリッジ:CHUDEN「MG-3675」17,380円(税込)
・MCカートリッジ:DENON「DL-103」53,900円(税込)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.197』からの転載です